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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

三

住居は田所町の裏長屋で、大政に近く、飯は朝夕とも頭梁の家で喰べたし、洗濯などもみなやってもらった。払うのは店賃だけだから、一年ちかいあいだ二人は暢気にくらしたが、猪之はやっぱり女をよせつけない。二人ぐらしで藤吉が遊びにでかけるのに、彼は独りであとに残った。酒は好きな性分とみえて、そのじぶんにはかなり飲むようになったし、酔うと陽気になるいい酒だったが、いくら酔っていても「くり込もうか」と云うときっぱり首を振る。

――あにきいって来いよ、おれはいやだ。

判で捺すようにそう云うだけであった。ところが二十二になった年の二月、猪之はきおいこんで藤吉に云った。

――嫁に貰いたい娘がいるんだ、あにきいって話をつけて来てくれ。

頼むと云って頭をさげた。

「ここが頭梁の家です」藤吉は話をやめて立停った、「ちょっと待っていて下さい、断わってすぐに来ますから」

三

間口五間ばかり、二階建ての大きな構えで、二枚あけてある障子に「大政」と書いてある。はいっていった藤吉はすぐに出て来て、堀に沿った道を南のほうへ歩きだした。

「知っている船宿があるんです、そこで一杯やりながら話しましょう」