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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

「当分のうちみんなに黙っていてくれ、と猪之は諄く云いました」と云って藤吉はぬるくなった茶を啜った、「すると半月ばかりして」

船宿の女房が酒をはこんで来た。二つの膳にはそれぞれ燗徳利と、摘み物が三品ばかり並べてあった。勝手にやるから構わないでくれ、と藤吉が云い、女房はすぐに去っていった。

「一つだけいかがですか」

「私はだめだ」

「じゃあ、失礼します」

藤吉は手酌で、舐めるように飲みながら、話を続けた。

半月ほど経った或る日、猪之は藤吉に向かって、あの縁談を断わってくれ、と云いだした。藤吉はいきなりどやしつけられたような感じで、猪之の顔をみつめたまま、暫くはものが云えなかった。

――あにきには済まねえが、あの娘はだめだ、てんでなっちゃねえんだ。

ちょっと待て、と藤吉は遮った。いったいどうしたんだ、なにがだめだ、あの娘のどこがなっちゃねえんだ。

――おれはゆうべ飲みにいった。

――念には及ばねえ、おれもいっしょにいったんだ。

――あにきは一と足さきに帰った、と猪之は云った。おれもすぐに帰ったが、お孝のやつが追っかけて来て呼びとめた、どうしたと訊くと、側へよって来て手を握りゃがった、それでおれは、また、どうしたんだと訊いた、お孝のやつはへんに気取った溜息なんかつきゃあがって、それから握っている手にぎゅっと力をいれて