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あかごうしくろうえもん

赤格子九郎右衛門

国枝 史郎

「中学世界」1924(大正13)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,484 字 · 29 页

青空文庫

で、ニベも無く断わった。最後に夫れを望んだは他ならぬ豊臣秀吉であった。然るに宗湛は夫れをさえ、情なく断わって了ったのである。

併し、名に負う天下人が、一旦所望したからは、いかに宗湛が強情でも遂には命に従わなければならない。斯うして遂々其茶入は、秀吉の有に帰したのである。

楢柴を得た秀吉は、勿論非常に喜んだが、そういう名器であって見れば、迂濶に左右に置くことも出来ぬ。で、利休へ預けたのである。

常時利休は茶博士として生きながら居士号を許された名家、且は秀吉の師匠ではあり、城内に屋敷を賜わって並び無き権勢を揮っていたが、名器楢柴を預かって以来、度々怪異に襲われるようになった。

或夜、利休は供も連れず静かに庭を彷徨っていた。さびと豪奢とを一つに蒐め、彼自ら手を下して造り上げたところの庭であるから、一本の木にも一坐の山にも悉く神経が通っている。

彼は亭の前まで来た、其横手に石燈籠が幽に一基燈っている。

「はて」と不思議そうに呟き乍ら、彼は其前に彳んだ。どう考えても其辺に石燈籠があるわけが無い。其処には燈籠は置かなかった筈だ。そこに燈籠のあるということは、彼の流儀に反している。