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せきようかんじけんのしんそう
赤耀館事件の真相
海野 十三
「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,797 字 · 60 页
笛吹川画伯は兄と以前はほんとに仲のよい親友だったのです。識り合ったのは、そんなに古くからではなかったようですが、どこか大変性分の合うところでも発見したものか、二人は兄弟以上の親しさを加えました。それが嫂――当時の綾子嬢が二人の間に挟まると、今度は恐ろしいほどの敵同志になってしまったのです。その激しい愛慾の闘争は、かれこれ半年もうちつづいたようでした。どうした風の吹きまわしか、綾子嬢は兄の腕にしっかり抱かれてしまいました。失恋した笛吹川画伯の様子は珍無類でした。彼は泪を滾したり、無口の人となる代りに、大層快活になり、能弁家になりました。一間に閉じこもって破れて落ちる文殻を綴り合わせているどころの話ではなく、彼は毎日のように顎髯をしごき乍ら、赤耀館へ憎々しい姿を現わしました。彼は兄の前で、皮肉と呪いの言葉を無遠慮に吹きかけては喜んでいるらしい様子でした。兄には彼が、この上もなく恐ろしい人間に見えました。あれ以来というものは、快活を装う半面に於て、不思議な魅力を加えた彼の眼光と、切々と迫る物狂わしい彼の言葉とは、地獄を故郷に持っているらしい画伯の正体を見せつけられたような気がするのでした。