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ちょうかきんむ

超過勤務

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页

青空文庫

彼は叱責の眼で少女を見た。それは神聖を冒涜されたというふうな、威厳を示すつもりらしいが、反対に、秘していた自分の弱点をあばかれたための、屈辱感のあらわれのようであった。

「おじさんこそ誤解してるわ、あたしは可哀そうでなんかありゃしなくってよ」と少女は云った、「これまでは可哀そうだったわ、うちがひどい貧乏で、きょうだいが六人もいて、うすぎたない狭いうちにごちゃごちゃと、みんなぼろを着ておなかをすかして、まるでのら犬の親子みたいなくらしをしていたわ、ああいやだ、考えてもぞっとする、ああいやだ」少女は外国映画で覚えたのだろう、両手を左右へひらっと振り、肩をすくめながら顔をしかめた、「いまはちがうわ、あたしはのら犬の巣から出られたのよ、ようやく人間らしいくらしができるようになったし、これからの一生もたのしさがいっぱい、おなかをへらしたのら犬がなんでも食べるように、たのしいことならなんでも、片っ端からあちし食べてやるわ、どんなことだってもよ」

「できればね」彼はもの憂げに云う、「――それができるなら、この世で苦労することはないんだがね」