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ちょうかきんむ
超過勤務
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页
ものだったからな、そうやって残業しながら、あの人のことを思ってはよく涙をこぼしたものだ、――もしおれにも青春というものがあったとすれば、残業しながら泣いた、あの時期だけがそれだろうな」
電話のベルが鳴って、彼を空想の中からひきずり出した。彼はいそいで記帳にかかろうとし、それから気がついて、受話器を取った。
「はあ」彼は喉で声をころして云う、「こちらは輸入品整理部でございます、あ」と云って彼はデスクの一点を見てあわてる、「はい、はあやっております、はあ、いえそんなことはございません、帳簿がしまいこんであったものですから、捜すのにちょっと暇をとられましたが、もう照合にかかりましたから、はあ、はあ、はい、月曜日でよろしいとおっしゃるのですか、はい、いえ私はべつに、はい、はい、はあそれはどうも、はい承知いたしました、ではごめんください」
彼は受話器を置いて深い大きな溜息をつき、ふん、と鼻を鳴らした。さっきまでやっていた照合をすっかり忘れ、うっかり記帳にかかっていたことがいまいましかったし、いまになって月曜日でいいと云われたことが、いまいましさを十倍にもした