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ちょうかきんむ
超過勤務
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页
、おい」
彼はしばらく受話器を耳に当てたままで、やがて舌打ちをしてそれを置き、こっちのデスクへ戻った。
「困ったやつだ、ひとをなんだと思ってるんだ」彼はペンを取りながら云った、「友達におごられたから、お返しをしなければ悪い、ふん、親の脛をかじってる分際で、おごられたお返しもくそもあるか、あいつだんだん不良じみてくるぞ」
彼は記帳を続け、伝票をめくる、「――ロンバールか、ロンバール」そして帳簿のページをめくって、そこをひらいたが、そのままなにか考えこんだ。表情が固くなり、眉がしかみ、眼が一点をみつめたまま動かなくなった。
「いや、――」とやがて彼はゆっくり首を左右に振った、「そっとしといてやろう、誰にでもそういう時期がある、つまずいたり、転んだり、あっちへぶっつかりこっちへぶっつかりして、それでだんだん成長してゆくんだ、子を育てるにも辛抱が」
電話のベルが彼の独白をさえぎり、彼は受話器を取った。
「はあ、――」声をころして云いかけたが、突然、彼はとびあがりそうになり、わめきだそうとするようにみえたが、そこでまた突然、にこっと笑って電話機におじぎをし、グロテスクな作り声をだして云った、「――はい、こちらはバー・ボンポンクラブざあます、まりっぺはあたくしざあますのよ、どうだ」