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えちごのふゆ

越後の冬

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页

青空文庫

沙山を越えると町だ。

町へ入ったのは日暮方であった。入日が海辺の町に当っていた。空っ風が強くて、黄色な砂塵が揚っていた。雪が来る前には乾くものだ。道は乾き切って割れている処さえあった。小高い丘の船問屋の高い竿の尖に赤い旗が翻々と閃めいている。また町の三階造の宿屋の窓硝子がぎらぎらと黄金色に輝いていた。太吉は町の中を彷徨いていた。馬が荷車を引いて通った。人力が駆けて行った。何れも日暮方であるのと、夜になると風が寒いのに怖れて、行先を急いでいる。その他、忙しそうに道を歩いている男や女の姿を見た。けれど自分の母の姿は見えなかった。

太吉は、心当りの家を尋ね廻ったが、何等の手掛りを得なかった。彼は疲れた足を引摺って町を出ると、浜辺の広々とした処に来た。この辺は一面に無縁の難船者の墓がある所であった。何処の者とも分らない航海者や、船乗人が、暴風で船を壊されて、海の藻屑となって、この浜辺に打ち上げられたものを、この海岸の漁猟人が此処に葬ったのである。昔からの墓が此処にあるのだ。いずれも三尺に満たぬ木標が建られていた。古いのは腐ってしまい、二三年前のものは、墨痕が雨風に消えて、根元が腐りかけて傾がっている。