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えちごのふゆ
越後の冬
小川 未明
「新小説」1910(明治43)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页
小舎は野中にあった。四辺の林や、森は静かに眠っていた。小舎の障子には明るく火影が照って、中で二三人酒を飲んで笑っている様子であった。太吉は番人の見ていないのを幸いに抜足して線路内に立入ると一生懸命に線路に付いて駆け出した。一陣夜嵐が空を渡った。星は身慄した。
轟々と闇の裡に鳴って渓河が流れている。其処には、黒い鉄橋が架っている。太吉は氷のように冷たな鉄橋に縋りながら細い板の上を怖る怖る渡った。下は暗く、深く深く、岩に砕けて水が叫んでいた。霜は一面に白く、粉の如く板の上に結んでいた。星明りに白くなって光った。やっとその難関を通り抜けた。遠くの方で犬の遠吠するのが聞える。
また一陣夜嵐が空を渡った。
太吉は覚えず身戦いすると、北の方から黒雲が自分の後を追って来た。瞬く間に拭ぐったように星晴のしていた空は曇って、星の光りが遠く遠く幽んだ。
また一陣夜嵐が空を渡った。さらさらと顔に当ったものがある。撫て見ると雪であった。あ、雪が降って来た! といって太吉は途を急いだ。この辺には人家がなかった。全くの広い野原の中で、目を遮る大きな林もなかった。雪は次第に降って来た。