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えちごのふゆ

越後の冬

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页

青空文庫

」

太吉の母は病身であった。いつも青い顔をして咳ばかりしていた。けれど太吉を可愛がった父親が旅稼に出てから、一入太吉も母を慕った。母は二三日前まで床に臥いていたが、この日は朝のうちは天気がよかったので、買物をするため、豆を少し許負って町へ行った。町へ行く時、

「太吉や、気分もいいし、お天気も好さそうだから町へ行って来るぞ。昼過には直に帰ってくるから待ていれよ。」

と言い遺して、平常商売に出る時の風で、草鞋を穿いて出て行った。この村から、高田へは三里、直江津へは二里ある。母は常に高田へも行き、直江津へも行った。太吉は、母に向って何方の町へ行くのかと聞こうかと思ったが、母が直に帰って来るといったので、別に聞かなくともいいと思い返した。而してただ、

「そんだら、早く行って来やしゃれ。雪が降って来ると不可ないすかい、早く行って来やしゃれ。」

といったばかりで、出て行く母を淋しそうに見送っていた。太吉は今年十四であった。山にはただこの家一軒あるばかりだ。麓の村に下りる迄は二三丁程あった。太吉は日に幾回となく、この赤地の山道を下りて遊びにも行き、家の用事をも達しに行った。