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あし

足

豊島 与志雄

「新小説」1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,967 字 · 8 页

青空文庫

」

一寸間があった。

「いや、どうも……。済みません。」

寝呆けたような声がして、足が引込んで、それから、暫くごそごそと物音が続いた。がやがて、ひっそりとして、列車の響きだけになった。

私はカーテンを閉め切った。変にむし暑かった。足の幻想が消えて、現実的な醜い印象だけが残った。私は腹立たしくなったり可笑しくなったりして、長く寝つかれなかった。二つばかり駅を過ぎた。そしてなお闇夜の中を汽車は走り続けていた。

翌朝遅く私は起き上った。遅くと云っても列車内のことで七時頃だったろう。

寝台から飛び出して、真先に覗いて見ると、上の段はカーテンを開け放してあって、男はどこかへ行っていた。

顔を洗って帰ってくると、ボーイが座席を片付けていてくれた。上段の男は、もう汽車から降りたのか、それらしい姿も見えなかった。

汽車は琵琶湖の岸を走っていた。どんよりと曇った風のない朝だった。

私は食堂へ行った。睡眠不足と疲労とのために、頭が重苦しかった。

それから自分の座席に戻ると、私の側に、四十年輩の飛白の着流しの男が坐っていた。そしてふいに私へ声をかけた。

「どこまでおいでになります。