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おどるいっすんぼうし
踊る一寸法師
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,734 字 · 16 页
「オイ、緑さん、何をぼんやりしてるんだな。ここへ来て、お前も一杯御相伴にあずかんねえ」
肉襦袢の上に、紫繻子に金糸でふち取りをした猿股をはいた男が、鏡を抜いた酒樽の前に立ちはだかって、妙に優しい声で云った。
その調子が、何となく意味あり気だったので、酒に気をとられていた、一座の男女が一斉に緑さんの方を見た。
舞台の隅の、丸太の柱によりかかって、遠くの方から同僚達の酒宴の様子を眺めていた一寸法師の緑さんは、そう云われると、いつもの通り、さもさも好人物らしく、大きな口を曲げて、ニヤニヤと笑った。
「おらあ、酒は駄目なんだよ」
それを聞くと、少し酔の廻った軽業師達は、面白そうに声を出して笑った。男達の鹽辛声と、肥った女共の甲高い声とが、広いテント張りの中に反響した。
「お前の下戸は云わなくったって分ってるよ。だが、今日は特別じゃねえか。大当りのお祝いだ。何ぼ不具者だって、そうつき合いを悪くするものじゃねえ」
紫繻子の猿股が、もう一度優しく繰返した。色の黒い、脣の厚い、四十恰好の巖乗な男だ。
「おらあ、酒は駄目なんだよ」
やっぱりニヤニヤ笑いながら、一寸法師が答えた。