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おどるいっすんぼうし

踊る一寸法師

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,734 字 · 16 页

青空文庫

私は云い難き恐怖に戦いた。さっきのは、あれは本物のお花の笑声だったのか。若しや、奥底の知れぬ不具者が、床の仕掛けをふさいで真実彼女を刺し殺し、獄門に晒したのではないか。そして、あの声は、あれは死人の声ではなかったのか、愚なる軽業師共は、彼の八人芸と称する魔術を知らないのであろうか。口をつぐんだまま、腹中で発音して死物に物を云わせる、あの八人芸という不思議な術を。それを、あの怪物が習い覚えていなかったと、どうして断定出来るであろう。

ふと気がつくと、テントの中に薄い煙が充ち充ちていた。軽業師達の煙草の煙にしては、少し変だった。ハッとした私は、いきなり見物席の隅の方へ飛んで行った。

案の定、テントの裾を、赤黒い火焔が、メラメラと嘗めていた。火は已にテントの四周を取りまいている様子だった。

私は、やっとのことで燃える帆布をくぐって、外の広っぱへ出た。広々とした草原には、白い月光が、隈もなく降りそそいでいた。私は足にまかせて近くの人家へと走った。

振り返ると、テントは最早や三分の一まで、燃え上っていた。無論、丸太の足場や、見物席の板にも火が移っていた。