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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
不思議な手紙
不思議な手紙
「兄貴、こいつは一杯食わされたらしいぜ」
「叱ッ」
関東新報の社会部長で、名記者と言われた千種十次郎は、好んで斯んな伝法な口をきく、部下の早坂勇――一名足の勇――をたしなめるように、霞門の方から入って来る狭い道を指しました。
「あれを見ろ勇」
「女だ」
「しかも、若くて美しくて贅沢な女だ」
「成程、こいつは面白い」
二人は口から耳へ、斯う囁き交してフッと口を噤みました。
日比谷公園の新音楽堂の裏手、滅多に人の来そうも無い、忘れられたようなベンチを見守って、一時間余り我慢して居た二人だったのです。
若くて美しくて贅沢な女は、ベンチの傍まで歩み寄った。不安そうに四方を見廻し乍ら、崩折れるように腰をおろしました。少し遠い電灯は、青白くその顔を照し出します。
二人の新聞記者は、黙って藪の陰にうなずき合いました。この美しさは、間違えようもありません。帝都劇場の花形柳糸子の人目を忍ぶ姿だったのです。
広場は躑躅の客で一杯ですが、此辺は森閑として人の気配もありません。時々風の具合で、寄る浪のように聴えるのは、ヨハン・シュトラウスのワルツらしい。柔かい甘い旋律です。