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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
全く石郷氏がどんなに細そりして居ても、鍵穴や扉の隙間から入って、人を殺せるわけは無かったのです。
続いて関東新報の記事――柳糸子が前夜日比谷公園で脅迫された――というのにヒントを得たのでしょう。丹波高一が木賃宿から挙げられました。併しそれもダイヤの指環と、糸子の着物を入質しようとしたという以外には、犯罪と関係のある証拠は一つもあがりません。それに、糸子の殺された推定時間――十二時前後――には足の勇と銀座あたりを梯子で飲み廻って居たのですから、立派な現場不在証明を持って居るわけです。
ガストン・ルルウの書いた「黄色の部屋」の犯罪のように、外で撃たれた柳糸子が、何んか重大な理由で、苦痛を忍んで室の中へ入って倒れたのではあるまいかと言う説を立てた人もあります。が、屍体解剖の結果、そんな事は絶対にあり得ないということが証明されました。第一部屋の外へは血が一滴も流れて居ないのですから、屍体解剖を待つまでもなく、そんな探偵小説染みた解釈は成り立ちません。
「兄貴、三人目の容疑者が挙ったぞ」
足の勇が帰って来たのは、その翌日でした。
「誰だ?」
「隣室に居る女優の篠井智恵子さ」