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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
「済まなかったワねエ。その代り、すばらしい冒険をやっちゃったワ」
「何うなすったの」
「日比谷公園へおびき出されて、身ぐるみ剥がれちゃったの。成っちゃ居ないワねエ」
「まア」
成程、気が付いて見ると、何時の間にやら糸子の着物が変って、飛上り、西洋人が着るような、素晴らしい友禅縮緬の単衣になって居ります。
「その代り、私を救ってくれた一人の勇士を紹介するワ。千種十次郎、関東新報社の社会部長よ。この方を知らないと、芸人でも、芸術家でもモグリにされるワ」
指された入口の扉を背にして起ったのは、この空気とは相応わない、名記者千種十次郎の和服姿です。知ってる顔も知らない顔も、一わたり軽い目礼を交わすと、話題の中心は又柳糸子の襲撃事件に移って行きます。
「で、何処も怪我は無かったのかい」
有名な石郷氏は楔形の髭を反らせて、斯う鷹揚に言います。柳糸子の新しいパトロンを以って任じて居る富豪で、言葉遣いの尊大なのは、身分柄のせいばかりではありません。
「怪我なんかしないけれど、公園の真中で身ぐるみ剥がれちゃったんだから、そりゃ口惜しかったワ。こんな事と知ったら、これでも持って行けばよかったのに」