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みがわりのはなよめ

身代りの花嫁

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,685 字 · 22 页

青空文庫

「陽子さん、本当にお気の毒ねえ」

「有難う、勇美子さん、貴女のお兄様が、うちの兄さんがそんな事をする筈はないと仰しゃって、いろいろ骨を折って下さるんで、母や姉がどんなに喜んで居るでしょう」

陽子はもう泣いて居りました。有望な青年技師と言われて、若いながら特許権だけでも六つも七つも持って居る兄の竜太郎が、人殺の嫌疑で未決に繋がれて居るのですから、身内の者の心配は一通ではありません。

「陽子さん、顔色が悪いワ。お兄様の疑はきっとはれるに決って居るから、あまり心配なさらない方がいいワ」

「でもね、私よりお母様が、――近頃は毎日泣いてばかりいらっしゃるし、――この二、三日はなんにも食べずに寝たっきりなの、年をとって居るから、お兄様より此方が心配だって先生も仰しゃるのよ」

「そう――」

「勇美子さん、自動車を衝突さして運転手を殺したり、口紅に毒を入れて詩子姉様を殺そうとしたのは、本当に誰でしょう」

二人は神宮外苑の中を、春の光を浴びて歩いて居りました。どちらも軽い洋装ですが、勇美子はクリーム色のジャケツ、陽子は白のセーラー、ロング・カットが和かい風に靡いて、知らない者が見たら、少女の幸福に酔った散歩姿とも見るでしょう。