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かるいざわにて

軽井沢にて

正宗 白鳥

「旅人の心」1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,560 字 · 13 页

青空文庫

気紛れではありません。でも、あたくしの心は甚だ弱いにちがい御座いません。決心がひるまないとも限りません。ですから、今直ぐにも誓いを立てて仏の道に入りたいので御座います。」

極りなき美貌のこの女性が、かかる陰鬱な量見を持っていることは、横川の聖たる老僧の心にさえ異常の事件と思われた。浮舟を恋いしている男子どもが、彼女の覚悟を洩聞いたなら、いかに心を傷ましめるであろうか。

この物語のなかの人物は、男女ともまだ二十にもならぬ前から、花鳥風月のたしなみが豊かで、虫の声、木の葉のそよぎ、露の置きどころにも心を動かしているが、それとともに、ややもすると遁世を志している。青年貴族薫の如き、秀才で美貌で地位もありながら、絶えず、俗界を棄てることを、自分の取るべき唯一の正しい道のように云っている。この物語では、花鳥風月と愛慾と、遁世感とを皆んなが享楽している。その三つに陶酔している。“real troubles”とか“torture”とか、彼等が口にしても、二十世紀の今日の現在苦や悩みとは、言葉の内容が異っているように思われる。

私の借りている丘上の家は、夜は寂寥として、周囲に虫の音が盛んである。