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かるいざわ

軽井沢

寺田 寅彦

「経済往来」1933年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,190 字 · 13 页

青空文庫

柱の白樺の皮がはがれた所を同じ皮で繕って、その上に巻いたテープには「白樺の皮をだいじにしてください」と書いてある。なるほど、だれでもちょっとはがしてみたくなるものと見える。この車を引っぱる電気機関車がまた実に簡単で愉快なものである、大きな踏み台か、小さな地蔵堂のような格好をした鉄箱の中に機関手が収まっている。その箱の上に二本鉄棒を押し立てて、その頂上におもちゃの弓をつけたような格好のものである。それでもこれが通ると、途中の草原につながれて草をはんでいる馬が、びっくりしてぴょんぴょんはねるのである。

旧軽井沢の町はユニークな見ものである。ちょっと見ると維新以前の宿場のような感じのする矮小な低い家並みの店先には、いわゆる「居留地」向きの雑貨のほかに、一九三三年の東京の銀座にあると同じような新しいものもあるのである。書店の棚にはギリシア語やヘブライ語の辞書までも見いだされる。聖書の講義もあればギャング小説もある。

郵便局の横町にナンキン町がある。店にいて往来人をじろじろながめる人たちの顔つき目つきがどこかやはりちがう。なんとなくゲットーのような趣もある。