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のうそん
農村
宮本 百合子
「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页
婆さんは懸命に去年見た、お染久松の芝居を思い出して話してきかせた。お染の「かつら」が合わないで地頭が見えて居たとか、メリンスの着物を着ていたとか、脚絆をはかないので見っともなかったとか云って居る。祖母も私も笑ってきいて居る。こんな時には大抵祖母の歌舞伎座だの、帝劇だのの話が出る。
「小屋だけ見ても結構なもので。
と天井に絵の張ってある事、電気がまぼしくついて居る事、ほんとうに、縮緬や緞子の衣裳をつけて居る事などを、単純な言葉で話すのだけれ共、しまいには行かれも仕ないのに、只行きたがらせばかりするのはつみだと思っていい加減にお茶をにごして仕舞う。町へ芝居を見に行く前に、村の者はこの婆さんのところへ行って概説だけをきいて来るのであるけれ共、時には伽羅千代萩と尾上岩藤がいっしょになり、お岩様とお柳とが混線したりする。けれ共この村でのまあ芝居通である。
婆さんはいろいろ祖母と話をした末とうとう行くときめたらしく五十銭気張のだと云って居た。
「そいから御隠居さん、私の家の前の高橋の息子を知って居なするべ。あれが暮に除隊になって来るってなし、母どんは今から騒ぎ廻って居るのえ。