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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
『これはナカナカ運のいい手相じゃ。長崎へ行けばキット運が開けると手筋に書いてある』
と云います。私は呆れました。
『馬鹿吐け。長崎へ行く旅費がある位なら貴様の処へ相談に来はせぬ』
『まあ待て。そこが貴様の運のええところじゃ。運気のお神様は貴様の来るのを待って御座った』
と云ううちにチョット出て行きますと、瞬く間に五十両の金を作って来たのには驚きました。
『実は俺も生れてから四十五年、ここへ坐っ居ったが、イヨイヨこの家へ居ると四十六の年が取れん位、借金の下積になっとる。ちょうど女房と子供が、実家の餅搗の加勢に行とるけに、この店をば慾しがっとる奴の処へ行て委任状と引換えに五十両貰うて来た。序に俺のバクチの弟子で女房の弟に当るチットばかり耳の遠い常吉という奴も、長崎へ行きたがっとるけに、今寄って誘うて来た。三人連れで長崎へ行て一旗揚げてみよう。異人相手の古道具は儲かる理窟を知っとるけに、大船に乗った気で随いて来い』
と云います。日本一アブナイ運の神様ですが、迷うておりました私は大喜びで、そこへボンヤリ這入って来た、今の話のツン州という若者と三人で久し振りに前祝を一パイ遣って、夜汽車に乗って長崎へ来ました。