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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

それじゃけに鯨は人間と同じこと、三々九度でも新婚旅行でも何でもする。私ゃ大事な研究と思うたけに、実地について見物して来た。しかも生命がけで……」

「アラ。まあ。アンタ見て来なさったと……」

「お前たちに見せてやりたかったなあ。その仲の良え事というものは……お前たちは人間に生れながら新婚旅行なんてした事あ在るめえ」

「アラ。済まんなあ。新婚旅行なら毎晩の事じゃが」

「アハハ。措きなはれ。阿呆らしい」

「阿呆らしいどころじゃない。権兵衛が種蒔きなら俺でも踊るが、鯨のタネ蒔きバッカリは真似が出来ん。これも学問研究の一つと思うて、生命がけで傍へ寄って見たが、その情愛の深いことというもんなア……あの通りのノッペラボーの姿しとるばってん、その色気のある事チュタラなあ。ちょっとこげな風に(以下仁三郎懐手をして鯨の身振り)」

「アハハハハ……」「イヒヒヒ」

「オイ仁三郎……大概にせんかコラ……」

「海の上じゃけに構わん。牡も牝も涎を流いて……」

「アラッ。まあ。鯨が涎をば流すかいな……」

「流すにも何にもハンボン・エッキスちうて欝紺色のネバネバした涎をば多量に流す」

「……まあ。イヤラシイ。