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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
杉山茂丸
あんまり書き続けているうちに、諸君の神経衰弱が全癒り過ぎては却って有害だからこの辺で大略する。
次は現代に於ける快人中の快人、杉山茂丸翁に触れて見よう。
杉山茂丸
杉山茂丸なる人物が現代の政界にドレ位の勢力を持っているか、筆者は正直のところ、全然知らない。どんな経歴を以て、如何なる体験を潜りつつ、あの物すごい智力と、不屈不撓の意力とを養い得て来たかというような事すら知らない。恐らく世間でも知っている人はあるまいと思われるので、筆者が知っているのは、そこに評価の不可能な彼……杉山茂丸の真面目がスタートしている事と、同時に、そうであるにも拘らず、その古今の名探偵以上の智力と、魅力とをもって、政界の裡面を縦横ムジンに馳けまわり、馳け悩まして行く、その怪活躍ぶりが今日まで、頭山満翁と同様に、新青年誌上に紹介されないのは嘘だという事を知っているのみである。
杉山茂丸は福岡藩の儒者の長男として生れた。そうして維新改革後、父母と共に先祖伝来の知行所に引込み、そこで自ら田を作り、鍬の柄や下駄を製作し、又は父から授かった漢学を父の子弟に講義し、小学校の先生もつとめた事もあるという。