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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
ドンナに兇猛な囚人でも、奈良原典獄が佩剣を押えて、
「その縄を解け。こっちへ連れて来い」
と云って睨み付けると、今にも斬られそうな殺気に打たれたらしい。眼を白くして縮み上ったという。
或る夜のこと、死刑にする筈の四人の囚人が、破獄したという通知が来たので、奈良原典獄は直ぐに駈付けて手配をさせた。そうして自身は制服のままお台場の突角に立って海上を見渡していると、やや暫くしてから足下の石垣をゾロゾロ匐い登って来る者が居る。よく見ると、それがタッタ今破獄したばかりの四人の囚人たちで、海水にズブ濡れのまま到翁の足下にひれ伏して三拝九拝しているのであった。
後から取調べたところによると、その囚人はトテも兇暴、無残な連中で、看守をタタキ倒して破獄の後、お台場の下に浮かべてある夥しい材木の蔭に潜んで追捕の手を遣り過し、程近い潮場の下の釣船を奪って逃げるつもりであったが、その中に四人の中の一人が、
「……オイ……石垣の上に立って御座るのがドウヤラ典獄さんらしいぞ」
と云うと皆、恐ろしさに手足の力が抜けて浮いていられなくなった。歯の根がガチガチ鳴り出して、眼がポオとなってウッカリすると波に渫われそうになって来たので四人がだんだん近寄って来て……これはイカン。