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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
男という男が女に化けて、女という女が男に化けて飲み放題の踊り放題の無礼講が三日も続くんだぞ。謝肉祭の上を行くんだ。巡査や兵隊までが仮装と間違えられる位、大あばれに暴れるんだぞ。そんな馬鹿騒ぎの出来る町が日本中のどこに在るか探してみろ。それでいて間違いなんか一つもないんだ。翌る日になると酔うた影も見せずにキチンと商売を初めるんだ。絹ずくめの振袖でも十両仕立ての袢纏でもタッタ一度で泥ダラケにして惜しい顔もせずに着棄て脱ぎ棄てだ。三味線知らぬ男が無ければ、赤い扇持たぬ娘も無い。博多は日本中の諸芸の都だ。町人のお手本の居る処だぞ。来るなら来い。臓腑で来い。大竹を打割って締込みにして来い……。
× × ×
ここに紹介する博多児の標本、篠崎仁三郎君は、博多大浜の魚市場でも随一の大株、湊屋の大将である。近年まで生きていた評判男であるが正に名僧仙崖、名娼明月と共に博多の誇りとするに足る不世出の博多ッ子の標本と云ってよかろう。但、博多語が日本の標準語でないために、その洒脱な言葉癖をスケッチしてピントを合わせる事が出来ないのが、千秋の遺憾である。