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こんどういさみとかがく

近藤勇と科学

直木 三十五

「文藝春秋増刊・オール讀物号」1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,465 字 · 28 页

青空文庫

そして、地の凹みに足をとられて、立木へ倒れかかって、やっと、左手で、木に縋って支えた。

(負傷したな)

と、近藤は思った。

(鈴田だ)

その男が、立木へ手をかけて俯いた横顔をみて思った。その途端鈴田の凭れている木の枝が、べきんと、裂き折れて、大きい枝が、鈴田の頭、すれすれにぶら下った。

「鈴田っ」

鈴田の脚元に、小さい土煙が立った。鈴田は、刀を杖に、よろめきつつ、二三歩引返すと、倒れてしまった。

敵の兵は、未だ一町余の下にいた。そして、立木の蔭、田の畔、百姓家の壁に隠れて、白い煙を、上げているだけであった。

近藤は、墨染で、肩を撃たれた事を思出した。小さい、あんな鼻糞のようなものが、一つ当ると、死ぬなど、考えられなかった。二十年、三十年と研究練磨してきた天然理心流の奥伝よりも鋭く人を倒す弾丸――小さい円い丸――それが、百姓兵の、芋侍にもたれて、三日、五日稽古すると、こうして、近藤が、この木の蔭にいても、何うする事も――手も足も出無いように――

(馬鹿らしい)

と、思ったが、同時に、恐怖に似たものと、絶望とを感じた。土方は、堡塁の所から、首だけ出して、何か叫んでいた。