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ついぼ
追慕
宮本 百合子
「大横浜」1920(大正9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,353 字 · 5 页
真個に――。考えではない、思いである。
歌を詠みたい。けれども私に歌は出来ない。其故斯うして散文を書いて見る。今の私の心持には、此の散文も詩に近いような思いの律動を以て浮んで来るのである。
魂が洗練されない事は恐ろしい。人にも、自分にも沢山の見える見えない悲劇を与える。自分の為に或る幾つかの魂が苦しみ、歎き、沈黙の忍従に頭垂れていても、知らなければ解らない。無智は不明は、敵意の無い挑戦者である。
魂の深みを顧みて見ると、そういう風な悔恨を沁々と味わずには居られない。
此は決して郷愁がさせる業でもなければ、感傷主義の私生児でもない。其は確だ。一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その一点を中心として四囲に発散している種々の光彩を見、感じる事が出来るように成るのではあるまいか、私の魂が粗野で、先頃までは鈍かった感触が此頃漸々有るべき発育を遂げたらしい心持がする。人間が次第次第に、その五体的の複雑性を増して来る。ありがたい事だと思う。
彼の時分に、自分も受け、人にも授けた苦痛の数々が、如何か無駄では無いように成って欲しいと思う。