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ついおく
追憶
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页
私は種々喋った末何の気なしに甘えた口調で友達の一人が自分を酷めて困る事を告げ、或る慰めと同意をかすかに期待しながら、
「ほんとうにいやな人なのよ、
私憎らしくって仕様がないわ。
と云うと、思いがけず私の延して居た腕に飛び上る程の痛みを感じた。
ハット思った心が鎮まると漸う私は彼に抓られたのだと云う事が分った。
私の云った事が此れ程の報酬を受けなければならない程大変悪い事であったろうとはどうしても思えなかったので、すっかり怯えた心持に成って仕舞った。
自分の大切に思って居る人から叱られる事は私には一番たまらない事である。
もう先ぐにも逃げ出し度い様になりながらも、左様しては悪いだろうと云う遠慮が起って非常に途方に暮れた心持になった事があった。
此の一事は私の無遠慮な言葉に制限を与える様になった。
それから後は、彼に何か話す時今まで感じなかった様な用心深さと緊張が胸一杯になって、彼に「何でも喋る」と云う打ちまかせた態度から僅かながら遠のかせられた。
此の事を思う毎に若し私が十年立つ今まで、彼と一緒に、少なくとも折々は会いもし口も利く生活をして来たら、かなり有りのままに自分自身を表わして居る私の今の生活がどの様に変化させられただろうと云う事を興味深く考える。