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とじょうのはんにん
途上の犯人
浜尾 四郎
「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页
なお先に一言つけ加えておけば、私は彼の話をきいているうちに、彼が悲しい事には(!)決して気狂いでない事を知ったのである。
三
「初めにはっきり申しておきます。私は今から二ヶ月半ばかり前、即ちこの二月の初旬、僅か二歳になったばかりの私の娘をこの手で殺してしまったのです。これは全く間違いのない事実です。
何故、私が我が子を殺したか? 憎くてならなかったからです。何故殺したい程憎かったか。それは、我が妻の子だったからです。我が子と私は云いました。しかし、あの赤ん坊がたしかに我が子だったかどうかは判りません。否、殺した時、私は妻の子であっても私の子ではないと信じたのです。
私は今帰りつつある郷里(読者よ、それは偶然にも筆者の目的地と同じなのである)で、三年前にある女と結婚しました。私はおはずかしい話ですが彼女に惚れたのです。彼女も又私を愛しました。少なくも私はそう信じて居ました。
私らが結婚する以前、私には互いに知り合いではありませんでしたが、競争者らしいものがありました。敏子――これは妻の名です――は固い家の娘なのですが、彼女の家では二階を若い男に貸して居たのです。