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とじょうのはんにん
途上の犯人
浜尾 四郎
「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页
東京生まれの水原という男が、敏子の家に居た事があります。その男が敏子に恋しているという話をきいた事があるので、水原という名は私には常に恋仇のように考えられて居たのでした。この男は私達の結婚の少し前に東京へ去りました。
結婚までにも種々な事がありましたが、それ等は煩しくなりますから省いて、すぐ結婚生活の話に入ります。私ははじめは幸福でした。妻の家にもと居た水原の事などは全く忘れてしまった位幸福だったのです。
ところが偶然の機会から、この幸福は全く破れてしまいました。それはたった一つの封書にすぎませんでした。結婚後暫くたってからの或る日、男文字で書かれた手紙が妻宛に来たのです。私は自分の所に一緒に来た手紙を片っぱしから開いていたので、つい、その手紙も自分のところに来たものと思い違えたのでした。無論封筒の上書きが男の字だったから、こんなことになったのでした。中から出て来たのは、水原からの手紙だったのですが、表にはっきり男の字で書いてある位ですから、中の文句だって一つもへんな事は書いてありません。
けれど、変な事の書いてないその手紙が私には、限りなく不快だったのです。