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とじょうのはんにん

途上の犯人

浜尾 四郎

「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页

青空文庫

列車がT駅に着すると、今まで妙な顔をしていた相川俊夫は不意にきっぱりとした快活な調子を現わし、陽気な笑顔を作って私の手を握った。

『××先生、どうでした、今までの話は! 無論あれは皆出鱈目ですよ。私には第一女房なんてまだないんです。平生先生の小説を愛読しているので、御退屈をまぎらす為にあんな話をして見たのです。一昨日は東京で偶然のり合わせ、今日も又思いがけなく乗り合わせましたね。如何です、出来ばえは。あはははは左様なら』

唖然としている私をあとに彼はさっさと車から出て行った。

読者は多分こういう結末を予想されたかも知れぬ。又私自身も、こういう結末を予想しないではなかった。ことによると一杯かつがれたのではないか、とも思って見た。だから、もし彼がすっくと立ち上ったなら、やられぬうちに先手を打って、

『やあ、ありがとう、素晴らしい出来ばえでした。おかげで退屈しないですみましたよ。御作は早速発表しましょう』

と、こう云ってやるつもりだったのである。

所が事実というものは、中々探偵小説のようには行かぬものだ。

T駅に着くと、彼は立ち上りはしたが、何かしきりに物をおそれるように私によりそうのだった。