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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
その時は肺炎を併発して危篤な御容態だったと聞いております。その肺炎がやっとのことで全快すると、二た月も立ないうちにチブスでお亡くなりになったのです。―――そうでしょうな? 僕の云うことに多分間違いはありますまいな?」
「ええ」
と云ったきり湯河は下を向いて何かしら考え始めた、―――二人はもう新橋を渡って歳晩の銀座通りを歩いていたのである。
「全く先の奥さんはお気の毒でした。亡くなられる前後半年ばかりと云うものは、死ぬような大患いを二度もなすったばかりでなく、その間に又胆を冷やすような危険な目にもチョイチョイお会いでしたからな。―――あの、窒息事件があったのはいつ頃でしたろうか?」
そう云っても湯河が黙っているので、紳士は独りで頷きながらしゃべり続けた。
「あれはこうッと、奥さんの肺炎がすっかりよくなって、二、三日うちに床上げをなさろうと云う時分、―――病室の瓦斯ストーブから間違いが起こったのだから何でも寒い時分ですな、二月の末のことでしたろうかな、瓦斯の栓が弛んでいたので、夜中に奥さんがもう少しで窒息なさろうとしたのは。しかし好い塩梅に大事に至らなかったものの、あのために奥さんの床上げが二、三日延びたことは事実ですな。