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とじょう

途上

谷崎 潤一郎

「改造」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页

青空文庫

「そりゃ云いつけました―――かも知れません。僕はそんな細々したことまでハッキリ覚えてはいませんが、なるほどそう云いつけたようにも思います。そう、そう、たしかにそう云ったでしょう。それはこう云う訳だったんです、何しろ筆子は二度も流行性感冒をやった後でしたろう、そうしてその時分、人ごみの電車に乗るのは最も感冒に感染し易いと云うことが、新聞なぞに出ている時分でしたろう、だから僕の考えでは、電車より乗合自動車の方が危険が少ないと思ったんです。それで決して電車へは乗るなと、固く云いつけた訳なんです、まさか筆子の乗った自動車が、運悪く衝突しようとは思いませんからね。僕に責任なんかある筈はありませんよ。筆子だってそんなことは思いもしなかったし、僕の忠告を感謝しているくらいでした」

「勿論筆子さんは常にあなたの親切を感謝しておいででした、亡くなられる最後まで感謝しておいででした。けれども僕は、あの自動車事件だけはあなたに責任があると思いますね。そりゃあなたは奥さんの御病気のためを考えてそうしろとおっしゃったでしょう。それはきっとそうに違いありません。にも拘らず、僕はやはりあなたに責任があると思いますね」