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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
「なぜ?」
「お分りにならなければ説明しましょう、―――あなたは今、まさかあの自動車が衝突しようとは思わなかったとおっしゃったようです。しかし奥様が自動車へお乗りになったのはあの日一日だけではありませんな。あの時分、奥さんは大患いをなすった後で、まだ医者に見て貰う必要があって、一日おきに芝口のお宅から万世橋の病院まで通っていらしった。それも一と月くらい通わなければならないことは最初から分っていた。そうしてその間はいつも乗合自動車へお乗りになった。衝突事故があったのはつまりその期間の出来事です。よござんすかね。ところでもう一つ注意すべきことは、あの時分はちょうど乗合自動車が始まり立てで、衝突事故がしばしばあったのです。衝突しやしないかと云う心配は、少し神経質の人にはかなりあったのです。―――ちょっとお断り申しておきますが、あなたは神経質の人です、―――そのあなたがあなたの最愛の奥さんを、あれほどたびたびあの自動車へお乗せになると云うことは少なくとも、あなたに似合わない不注意じゃないでしょうか。一日おきに一と月の間あれで往復するとなれば、その人は三十回衝突の危険に曝されることになります」