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とんそう

遁走

葛西 善蔵

「新小説」1918(大正7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页

青空文庫

「僕はこれで馬越君のことについては、これまでいろいろと考えてきたつもりだ。どうかして君の生活をなりたたせたい、この活きた生活の流れの上に引きだしたいものといろいろと骨を折ったつもりだが、しかしこのごろになって、始めて、僕は君の本体なるものがどんなんか、少し解りかけた気がする。とにかく君の本体なるものは活きた、成長して行く――そこから芽が吹くとか枝が出るとかいったようなものではなくて、何かしら得体の知れないごろっとした、石とか、木乃伊とか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つまり亡者だね」

「……」

「……君はひどく酔払っていたから分らないだろうがね、あの洲崎で君が天水桶へ踏みこんで濡鼠になった晩さ、……途中水道橋で乗替えの時だよ、僕はあそこの停留場のとこで君の肩につかまって、ほんとにおいおい声を出して泣いたんだぜ。それはいくら君という人を突ついてみても、揺ぶって叩いても、まるで活きて行けるものといった感じの手応えが全然ないのだからね。それは君もたしかに一個の存在には違いないだろう、しかし何という哀しい存在だ! そしてまた君は君一人の人ではないのだ、細君とか子供とかいうつながりを持った人なのだ……」