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とんそう

遁走

葛西 善蔵

「新小説」1918(大正7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页

青空文庫

のは誠に失礼なわけですが、どうか事情悪しからず……」こういったようなことを、述べたのだ。しかし彼の態度や調子は、いかにも明るくて、軽快で、そしてまた芸術家らしい純情さが溢れていたので、少なくとも私だけには、不調和な感じを与えなかった。「大出来だ! 彼かならずしも鈍骨と言うべからず……」私もつい彼の調子につりこまれてこう思わず心の中に微笑んだほどだ。しかし他の友人以外の人たちは、こうした佐々木の挨拶を聴いてどう思ったか、それは私には分らない。何となれば今度の笹川の長編ではモデルとして佐々木は最も苛辣な扱いを受けている。佐々木に言わせれば、笹川の本能性ともいうべき「他の優越に対する反感性」が、佐々木の場合に特別に強く現われている言うのだ。――こうしたことを読んでいて、今の佐々木の挨拶を聞いては、他の人たちはあるいは私とは違った意味の微笑を心の中に浮べたかもしれない。

続いて笹川は、その小さな身体をおこした。そして最も謹厳な態度で、「じつは、私は、いろいろと……恐縮しておりますので……これで失礼します……」こう言って、恭しく頭をさげた。これでおしまいであったのだ。