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とんそう
遁走
葛西 善蔵
「新小説」1918(大正7)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页
それにKやAのところへは四五日も前に行ってるそうだぜ。どうしたんだろうね君……?」
「そんなこと僕に訊いたって、分りゃせんさ。それに、元来作家なんてものは、すべてこうしたことはいっさい関係しないものなんだよ」笹川はこう、彼のいわゆる作家風々主義から、咎めるような口調で言った。
彼のいわゆる作家風々主義というのは、つまり作家なんてものは、どこまでも風々来々的の性質のもので、すべての世間的な名利とか名声とかいうものから超越していなければならぬという意味なのである。時流を超越しなければならぬというのである。こういう点では彼は平常からかなり細心な注意を払っていた。たとえば、卑近な例を挙げてみれば、彼は米琉の新しい揃いの着物を着ていても、帽子はというと何年か前の古物を被って、平然として、いわゆる作家風々として歩き廻っているといった次第なのである。
「……それでは君、僕はそういうわけだから、明日の晩は失敬するからね」原口はこう笹川に挨拶して、出て行った。
「原口君は原口君であんなことを言ってくるし、君は君でそんなだし、いったい君は僕のことをどんな風に考えているのかね? 温情家とか慈善家とでも思っているのかね? とんでもない!」