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うんめいろんしゃ

運命論者

国木田 独歩

「山比古 第十號」1903(明治36)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,357 字 · 34 页

青空文庫

』と里子は何処までも冷かしてかゝった。すると母は凄いほど顔色を変えて、

『お前怨霊が見たいの、怨霊が見たいの。真実に生意気なこというよ此人は!』と言い放ち、つッと起て自分の部屋に引込んで了った。僕は思わず、

『母上如何か仕て居なさるよ、気を附けんと……』

里子は不安心な顔をして、

『私真実に気味が悪いわ。母上は必定何にか妙なことを思って居るのですよ。』

『ちっと神経を痛めて居なさるようだね。』と僕も言いましたが、さて翌日になると別に変ったことはないのです。変って居るのは唯々何時もの通り夜になると不動様を拝むことだけで、僕等もこれは最早見慣れて居るから強て気にもかゝりませんでした。

処が今歳の五月です、僕は何時よりか二時間も早く事務所を退て家へ帰りますと、其日は曇って居たので家の中は薄暗い中にも母の室は殊に暗いのです。母に少し用事があったので別に案内もせず襖を開けて中に入ると母は火鉢の傍にぽつねんと座って居ましたが、僕の顔を見るや、

『ア、ア、アッ、アッ!』と叫んで突起たかと思うと、又尻餅を舂て熟と僕を見た時の顔色! 僕は母が気絶したのかと喫驚して傍に駈寄りました。