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かさんかマンガンすいのゆめ
過酸化マンガン水の夢
谷崎 潤一郎
「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页
予は此の支那の漬物が昔は大好物であったが、血壓症には禁忌なるを以て手をつけず。父が九州の炭坑に勤めているフジは、福岡辺でもこれとよく似た漬物を食う由にて、田舎を思い出して懐しいと云い頻りにこれを貪り食う。食後予は真っ直ぐ長谷川に戻り家人と珠子さんは銀座を一と廻りして来る。フジは赤坂の親戚の家に預ける。
九日朝九時頃フジが長谷川に来るのを待ち受け家人等三人は倉庫へ荷物の整理に行く。予は午前中在宿、東洋公論社その他一二の出版書肆の来訪を乞うて用談を済ませ正午少し前日比谷映畫劇場に問題の映畫「悪魔のような女」を見に行く。熱海にも映畫館は四軒あるのだが外国物の餘り一般向きでないのはめったに来らず、それに冷房や煖房の装置がないので真夏と真冬は到底老人は入場するに堪えられない。たまに上京する機会を待って、―――と云うよりも、予に関する限りむしろ演劇や映畫見物を主たる目的として上京することしば/\なり。「悪魔のような女」(原名 Les Diaboliques)は嘗ての「恐怖の報酬」の製作者でスリラー物を得意とするアンリ・ジョルジュ・クルウゾオの脚色監督したもの。