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みちづれ

道づれ

宮本 百合子

「文芸」1937(昭和12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,491 字 · 41 页

青空文庫

みほ子の心持の中には、絶えず、生活とはこういうものなのだろうか。これっきりなものだろうか。これっきりでいいのだろうかという本能的な疑問が生きていた。彼女はこの答えの見つからない、しかも心にとりついて離れることのない疑問におされて、謂わば答えを求めて、自分にあてがわれた仕事には本気で当って行った。店では、同じ仕事でも女学校出が一円十銭、小学校出は八十銭というきめであった。こちらの働きかたがどうであっても、それは動かないものだろうか。その気持もあった。

それが目的で模範店員になったのでもないみほ子は、やっぱり毎日が詰らなくて、たまの休日に一日布団にもぐりこんで、おむらに口一つきかず本ばっかり読んでいるようなことがあった。

六畳の縁側は雨戸がしまって、父親がのこして行った蘭の鉢が二つばかり置いてある。表のかざり屋の職人が、何かの金属を軽く早く叩いている澄んだ響がそれより遠方のラジオの三味線の音の間に聞えて来た。按摩の笛が坂の方を流してゆき、朝は騒々しい界隈であるが、宵は早く、身につまされる裏町の夜の静けさがあるのである。

みほ子の心に、きょうの最後の客であった庇髪の女の顔が浮んだ。