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どうけやく

道化役

豊島 与志雄

「中央公論」1934(昭和9)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页

青空文庫

雑草の繁茂なんかの中に自然を見出すのは、なげやりのだらしない生活の口実にすぎない、と云うのだった。そういう自然は意志の喪失を意味するのだと。私は或はそうかも知れないと考えてみて、いやな気がした。そっと窺ってみると、彼女の眼は青葉の反映を受けて無邪気にちらついていたが、中高の先の尖った鼻が如何にも高慢そうで、お召銘仙の着物と羽二重の帯のじみな服装に、帯留の珊瑚と指輪のオパールとがいやに落付払っていた。私はとりつき場がなくて、軽くウェーヴした髪に半ば隠れてる耳を、あの醜い耳を、しつっこく探し出し取出さねばならなかった。

「意志の喪失でも、間違った自然でも、そんなことはどうでもいいんです。ただ、雑草を生えるままに生えさしたい、それだけのことで、それが今では胸にぴったりくるんです。」

私はそう云って涙ぐんでいた。

だが、その言葉もその涙も嘘ではなかったが、不思議にも、そんなことを云ってそんな風に涙ぐみたいという気持があった。信子に対する私の態度としては珍らしいことだった。

私たちはなおいろんなことを話した。私の室の書物を見て彼女は、も少し詩や小説を読むがいいと勧めた。