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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
でも、どうして、わたしは、そんなにびっくりし、そんなにこわかったのに、家へかえってから、そのことを母に話さなかったのだろう。一緒に行ったひとが、来たときの道をとおってまた柵の方の道からかえろうとしたとき、わたしは強情に、こわい人がいるから、あっちはいや、と云って、道をかえ、佐竹ケ原をまわってかえって来た。一緒に行ったものも、こわい人、について問題にしなかった。
道灌山の曇りない楽しさは、おびやかされた。青々とはれた空へ翔んでゆきでもするように高い崖から遠くを見晴らすときの面白さ。草をかきわけ走る冒険的なたのしさ。どこまでも響いて、しかも自分たちの声だけしかきこえない静かな眩ゆい崖上の明るさ。そういう子供の官能の陶酔は、にょっきり草の中から半身あらわしたこわい人によって道灌山から遮断された。
田端へ汽車を見に行ったり、こうして道灌山で遊んだりしたとき、子供たちと一緒に来たのは、誰だったのだろう。
母ではなかった。母は美しく肥っていて、歩くのが下手だった。田端の駅まででも俥にのって来た。もとより祖母ではなかったし。――
わたしたちの子供時代、うちにはずいぶんいろんなひとがいた。