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どうかんやま

道灌山

宮本 百合子

「婦人」1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页

青空文庫

そして、二等だった誰かべつの人がドイツへ行った。下島のおじさんはそのときから、人間は信用できない。働こうとすれば世間が働けなくする、といって、もうどこにも勤めず、甥である父のところに寄食していた。

台所の高窓のところで、茶をのんで、ひとりごとを云っている下島のおじさんのそばによって、ピクつく頬を下から見上げていると、黒木綿の羽織のあたりの脂くさいような煙草くさいにおいがし、可哀そうなような、こわいような、いやなような気持がした。下島のおじさんは、時々夜なかに酔っぱらってかえって来て、中の口の戸をドンドン叩いて母にあけさせることがあった。そうでないときは、いつも玄関わきの「おじさんの部屋」で新聞ばかりよんでいるか、台所に来ているかした。子供たちと一緒に御飯をたべなかった。台所の三畳たたみの入っているところで、つかわれている人たちと食べた。母が拒んだらしかった。下島のおじさんと遊ぶことも禁じられていた。

たしかに、下島のおじさんは妙なことを教えた。わけのわからない匂いのことを云ったり、指の変な形をしてわたしたちに見せて、知っているかときいた。子供たちは、匂いのことも、指の形も知らなかった。