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どうかんやま

道灌山

宮本 百合子

「婦人」1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页

青空文庫

魚屋だの米や、荒物やだのの並んだせまいそのとおりをすこし行って左へ曲ると、じき養源寺があった。

養源寺には、二つ門がある。一つの門は手前にあって、それは石の門だった。石の門のなかにお堂があって、赤いよだれかけをかけた妙なものがそのお堂の奥におさまっていた。お堂の正面のよごれた格子から、うす暗い奥にぼんやりみえる赤いよだれかけは、小さいわたしの眼に、何となし正体のはっきりしない猿のようなものの感じがした。それは気味がわるかった。石の門から養源寺に入ってゆくより、そのとなりについている黒い大きい柱のたった木の門の方から入ってゆく方がすきだった。門のそとに自然石が立っていてそれには、お酒と牛肉を坊さんはたべてはいけない、ということが書いてあるのだそうだった。

黒い木の門を入ると、細長い石が行儀よくしいてあって、お寺の正面玄関につづいている。養源寺へ行ったとき、子供たちが一番によるのは、左手にある門番のところだった。どっさり手桶が重ねてあった。せまい土間に、赤い紙を巻いた線香と、水にさしたしきみやその季節の花がすこしあって、一緒に行った大人が、お線香やしきみを、そこで買った。