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えんぽうのはは

遠方の母

小川 未明

「赤い鳥 第十九卷第六號」1927(昭和2)年12月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,382 字 · 7 页

青空文庫

正ちゃんは、お母さんが、遠いところへいったと聞くと、よく女中の話がわかりました。いつ、その遠いところから、帰ってくるかということも、また、その遠いところというのは、どこだろうということも知らなかったけれど、ただ、ぼんやりと、遠いところへいったのだということだけがわかりました。

正ちゃんは、自分をよくかわいがってくれる女中の脊中にいて、不自由はしなかったけれど、自分にはほかの子供のように、お母さんがないのだと思ったときは、さびしそうにみえました。そして、どんなことを、小さな頭の中で思っているのか、

「お母ちゃん、……お母ちゃん。」といって、小さな掌で、女中の肩のあたりをたたいたのであります。

ある日のこと、もう、夏でありましたから、女中は手にうちわを持っていました。そのうちわは、毎日のように、勝手もとへご用を聞きにくる、出入りの商人が暑中伺いに持ってきたのであって、だれが描いたのかしれないが、若い女の人が、晩方の町を歩いている絵が描いてありました。

女中は、なんということなく、また深い考えもなく、脊中の正ちゃんに、うちわを見せて、

「坊ちゃんのお母さんは、ここにいられますよ。