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せんきょにんにあたう

選挙人に与う

大隈 重信

「新日本 第貮卷第五號」冨山房、1912(明治45)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,553 字 · 15 页

青空文庫

全体、投票権そのものは、憲法に依って国民に与えられたる権利であると同時に、また義務である。兵役、納税のそれにも劣らぬ義務である。この大切なる義務を怠るものが段々殖えて来るのは、即ち国民の国家に奉ずる精神が次第に冷淡になりつつあることを証拠立つるもので、実に容易ならぬことである。かかる現象は立憲政治の下にあっては、最も憂うべきことである。思えば選挙ということも明治十一年府県会の開設このかた、既に三十五年の歳月を経て、よほど進歩しておらなければならぬのに、事実は全くこれと反対で、年と共にむしろ退歩せんとするは、如何にも歎ずべきことでないか。

ここに於て候補者に立つものは、金を散ずる必要が益々多くなって来た。世には費用の膨張を以て大選挙区制の罪に帰する者もあるが、それは大いなる間違いである。例えば府県会の様な小選挙区制に於てすら、五、六千円乃至一万円の運動費を消費するではないか。こういう訳だから、国会議員の候補者に立って両三回その勝負を争うものは、大抵その家産を破ってしまう。ここに於て当選の暁には、議員の位地を利用して、一方に失いしところを他方に補わんとする野心が勃然と頭を擡げて来る。