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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

あなたが大人だからよ。あなたの心が汚いから汚く見るのよ。子供達は純心よ、と云う。すると、大学生も、先生、ひどいなア。奥さんをいじめたそうですね。先生は大人だから、そんな風に考えるんだな。僕たち、そんなこと、考えたことないけどなア。ズケズケと言う。ニヤニヤしながら言うのであるが、ヌケヌケという感じじゃない。どうしても低脳という感じであった。

然し、先生も、ついに怒った。自宅へ遊びに来た三人の大学生を、表へ、ひきだして、だしぬけに、なぐり、蹴った。先生は生れて以来鉄拳をふるったのは始めてだが、さいわい、相手の学生がだらしなくノサレて、三人ながら、ひっくりかえった。

それを見ると、先生はにわかに気が強くなり、三人をいそがしく殴りまわり、蹴りまわった。

一人の学生はゴメンナサイ、デモ、ナゼデスカ、と云い、一人の学生は、イタイヨ、ヒドイヨ、ヒドイデス、と言い、一人は何も言わなかった。

アキ子も路上へ現われ、とめることも忘れ、呆然と見ている。最後に先生はアキ子の両頬をパチパチ二十ほどビンタをくれると、キャアーッと泣きだす。

「出て行け。帰るな」

云いすてゝ、ピシャリと戸をしめ、鍵をかけた。