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いこん
遺恨
「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页
女は黙って立ったが、やがて、ドンブリを持ってきて、投げすてるように置いて行った。
先生はムサボリ食った。まずくはない。然し、シカとは分らない。昔の記憶と比較するには、昔の記憶が遠ざかりすぎているようである。昔なら、なんという食べ物に当るのだか、五目支那ソバ、というのかも知れぬ。ユデタマゴの一キレがある。イカがある。キャベツもある。先生は慌てゝいたので、コショーをふりかけるのを忘れたが、食べ終ってから、テーブルの上に薬味のあることにも気付いたのである。
先生の心は戦かった。もう一パイ食べるために女給をよばねばならぬ。然し、女給はお客よりもお客らしく、自分たちのテーブルでキャア/\さゞめいているのである。
まったく、分らないのはムリがない。先生とても、毎日街を歩くから、女の服装について知ってはいたが、大別して、ダンサーらしいものと、女学校卒業の事務員らしいのと、未婚の女にこの二色があって、令嬢だの女中だのという階級の別はないようであった。
女給と分って、三人組を見直し、お客と比較してみても、やっぱり区別が分らない。服装も髪の様子も同じようで、違っているのは、女給のテーブルには支那ソバのドンブリがないことだけであった。