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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

元よりそのくらいでございますから、狐の憑きましたのも、天狗の憑きましたのも、あるいはまた、何とも名の知れない、妖魅鬼神の憑きましたのも、あの十文字の護符を頂きますと、まるで木の葉を食う虫が、大風にでも振われて落ちるように、すぐさま落ちてしまいました。

が、摩利信乃法師の法力が評判になったのは、それだからばかりではございません。前にも私が往来で見かけましたように、摩利の教を誹謗したり、その信者を呵責したり致しますと、あの沙門は即座にその相手に、恐ろしい神罰を祈り下しました。おかげで井戸の水が腥い血潮に変ったものもございますし、持ち田の稲を一夜の中に蝗が食ってしまったものもございますが、あの白朱社の巫女などは、摩利信乃法師を祈り殺そうとした応報で、一目見るのさえ気味の悪い白癩になってしまったそうでございます。そこであの沙門は天狗の化身だなどと申す噂が、一層高くなったのでございましょう。が、天狗ならば一矢に射てとって見せるとか申して、わざわざ鞍馬の奥から参りました猟師も、例の諸天童子の剣にでも打たれたのか、急に目がつぶれた揚句、しまいには摩利の教の信者になってしまったとか申す事でございました。