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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
その時の咒文の中に、中御門と云うような語が聞えたと申しますが、それは事によると私の甥の耳のせいだったかもわかりません。元よりその間も平太夫の方は、やはり花橘の枝を肩にして、側目もふらず悄々と歩いて参ったのでございます。そこでまた私の甥も、見え隠れにその跡をつけて、とうとう西洞院の御屋形まで参ったそうでございますが、時にあの摩利信乃法師の不思議な振舞が気になって、若殿様の御文の事さえ、はては忘れそうになったくらい、落着かない心もちに苦しめられたとか申して居りました。
しかしその御文は恙なく、御姫様の御手もとまでとどいたものと見えまして、珍しくも今度に限って早速御返事がございました。これは私ども下々には、何とも確かな事は申し上げる訳に参りませんが、恐らくは御承知の通り御闊達な御姫様の事でございますから、平太夫からあの暗討ちの次第でも御聞きになって、若殿様の御気象の人に優れていらっしゃるのを、始めて御会得になったからででもございましょうか。それから二三度、御消息を御取り交せになった後、とうとうある小雨の降る夜、若殿様は私の甥を御供に召して、もう葉柳の陰に埋もれた、西洞院の御屋形へ忍んで御通いになる事になりました。